ITチームリーダーのための個々の「強み」を見つけ、チーム成果につなげる実践術
多様なITチームで個々の「強み」を活かす重要性
ITチームの現場マネジメントにおいて、技術スキルに加え、多様なバックグラウンドや専門性を持つメンバーをいかにまとめ、最高のパフォーマンスを引き出すかは多くのリーダーにとって共通の課題です。特に、エンジニア、デザイナー、マーケターなどが混在するチームや、リモートワーク、副業、フリーランスといった多様な働き方のメンバーが加わることで、その複雑さは増しています。
このような多様なチームを率いる上で、単にタスクを割り振るだけでなく、メンバー一人ひとりが持つ「強み」を理解し、それを最大限に活かすことが、チーム全体の生産性向上、メンバーのモチベーション維持、そして創造性の向上に不可欠です。本稿では、ITチームリーダーがどのようにしてメンバーの強みを見つけ、それをチームの成果につなげていくか、具体的な実践術をご紹介します。
「強み」とは何か? スキルだけではない多様な側面
「強み」と聞くと、特定のプログラミング言語のスキルや、特定のツールの習熟度といった技術的な専門性を思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろん、これらも重要な強みの一つです。しかし、ここで言う「強み」は、さらに広く捉える必要があります。
- 技術・専門スキル: 特定技術への深い知識、効率的なコーディング能力、インフラ構築スキル、デザインセンス、マーケティング戦略立案能力など。
- ソフトスキル・ヒューマンスキル: コミュニケーション能力、ファシリテーション能力、課題解決能力、傾聴力、交渉力、プレゼンテーション能力など。
- パーソナリティ・特性: 粘り強さ、好奇心、新しいことへの挑戦意欲、計画性、リスク管理能力、ポジティブさ、冷静さ、共感性など。
- 経験・バックグラウンド: 過去の職務経験、業界知識、異なる文化での経験、育児や介護といったライフイベントを通じた学びなど。
- 興味・関心: 特定の技術分野への強い興味、新しいツールへの関心、特定の社会課題への問題意識など。
これらの多様な側面が組み合わさって、その人固有の「強み」となります。リーダーは、これらの多様な強みに目を向け、メンバーの可能性を最大限に引き出す視点を持つことが重要です。
なぜ今、「強み」を活かすマネジメントが重要なのか?
多様なチームにおいて個々の強みを活かすことは、以下のような多くのメリットをもたらします。
- メンバーのモチベーション向上: 自身の強みを発揮できる役割やタスクを与えられることで、「貢献できている」という実感や自己肯定感が高まり、仕事へのモチベーションが向上します。
- エンゲージメント向上: 強みを活かせる環境は、メンバーのエンゲージメント(組織への貢献意欲や愛着)を高めます。これにより、離職率の低下にもつながります。
- チーム全体の生産性・創造性向上: 各メンバーが自身の得意な分野で最高のパフォーマンスを発揮することで、チーム全体の生産性が向上します。また、多様な強みが組み合わさることで、予期せぬ新しいアイデアや解決策が生まれやすくなります。
- 課題解決能力の向上: 複雑な問題に直面した際、多様な視点や強みがチーム内にあることで、多角的なアプローチが可能となり、より効果的な解決策を見つけやすくなります。
- リーダー自身の負担軽減: メンバーが自身の強みを活かして自律的に動けるようになると、リーダーが細部にわたって指示する必要が減り、より戦略的な業務に集中できるようになります。
メンバーの「強み」を見つける具体的な方法
メンバーの多様な強みを見つけるためには、意図的かつ継続的な関わりが必要です。以下に、いくつかの具体的な方法をご紹介します。
1. 1on1ミーティングでの「傾聴」と「問いかけ」
最も基本的な、そして効果的な方法です。定期的な1on1の中で、仕事の進捗だけでなく、メンバーの興味、関心、キャリア志向、仕事で「楽しい」と感じること、「得意だと感じること」について深く耳を傾けます。
具体的な問いかけ例:
- 「最近、仕事で一番楽しかった、あるいは『うまくいった』と感じた瞬間はどんな時でしたか? その時、ご自身では何が良かったと思いますか?」
- 「もし時間やリソースの制約が一切なかったら、どんなプロジェクトやタスクに取り組んでみたいですか?」
- 「チーム内で、他のメンバーに『これなら自分が役に立てる』と感じる場面はありますか?」
- 「過去の経験で、特に『これは誰にも負けない』と感じたことや、人から褒められた経験はありますか? それはどんなことでしたか?」
- 「仕事を進める上で、自然とやってしまうこと、あるいは『苦にならない』と感じることはありますか?」
これらの問いかけを通じて、メンバー自身も気づいていない、あるいは当たり前だと思っている自身の強みや、潜在的な関心事を探り出すことができます。重要なのは、リーダーが判断するのではなく、メンバー自身が語る言葉の中にヒントを見出すことです。
2. メンバー間の相互フィードバックを促す
チーム内のコミュニケーションを活性化し、メンバー同士が互いの貢献や強みを認識し合う文化を醸成します。日々の業務の中で、感謝や称賛の言葉を掛け合う機会を設けることや、定期的なピアレビュー(相互評価)の仕組みを取り入れることが有効です。
ツールを活用することもできます。例えば、Slackなどのコミュニケーションツールで「#kudos」のようなチャンネルを作り、メンバーが互いに称賛メッセージを投稿できるようにするなどです。他のメンバーからの率直なポジティブなフィードバックは、本人の自信につながり、自身の強みを認識するきっかけとなります。
3. 業務中の「観察」と「対話」
1on1だけでなく、日々のチーム内でのやり取りやプロジェクト遂行中のメンバーの様子を注意深く観察します。
- 特定の課題解決に対して、誰が率先してアイデアを出しているか?
- 難しい交渉や調整が必要な場面で、誰が粘り強く対応しているか?
- 新しい技術やツールに対して、誰が積極的に学び、チームに共有しているか?
- チーム内の雰囲気が悪くなった時に、誰が場を和ませようとしているか?
- 他のメンバーが困っている時に、誰が自然とサポートに回っているか?
こうした観察から得られた気づきを、その場で「〜さんの〇〇なところ、助かるよ」「あの時、〜さんが△△してくれたおかげでうまくいったね」と具体的にフィードバックすることで、メンバーは自身の行動がどのようにチームに貢献しているかを理解し、それが強みであると認識しやすくなります。また、後続の1on1で、「この前の〇〇の件、とてもスムーズだったね。どういうことを意識して対応したの?」のように、具体的な行動を深掘りする対話につなげることも有効です。
4. アセスメントツールの活用(必要に応じて)
自己理解や他者理解を深めるための様々なアセスメントツールが存在します。例えば、ストレングス・ファインダー(クリフトン・ストレングス)のような強み診断ツールや、MBTI、DiSCなどの特性診断ツールです。
これらのツールは、あくまで自己理解やチーム内の相互理解を促進するための一つの「参考情報」として捉えることが重要です。結果が全てではありませんし、型にはめるためのものでもありません。チームで結果を共有し、互いの違いを認め、理解を深めるための対話のきっかけとして活用すると良いでしょう。ただし、ツール導入にはコストや時間もかかるため、チームの状況や目的に合わせて慎重に検討してください。
見つけた「強み」をチーム成果につなげる方法
メンバーの強みを見つけたら、それをチームの成果に結びつけるための具体的な行動に移します。
1. タスク・プロジェクトのアサインメントに反映する
メンバーの強みを考慮して、タスクやプロジェクトの担当者を決めます。例えば、新しい技術調査が得意なメンバーには、その技術を使ったプロトタイプ開発を任せる。コミュニケーション能力が高く、異なる部署との調整が得意なメンバーには、クロスファンクショナルなプロジェクトの窓口をお願いするなどです。
重要なのは、単にスキルに合致させるだけでなく、メンバー自身が「やってみたい」「面白そうだ」と感じる仕事、つまり「強み」と「興味」が重なる領域を見つけてアサインすることです。これにより、本人のパフォーマンスは最大限に引き出されやすくなります。
2. 役割分担や責任範囲を柔軟に調整する
必ずしも固定された役割に縛られる必要はありません。プロジェクトのフェーズやチームの状況に応じて、メンバーの強みが最も活きるような形で役割分担や責任範囲を柔軟に調整することを検討します。
例えば、設計段階では論理的思考力に長けたメンバーに議論をリードしてもらい、実装段階では特定の技術に精通したメンバーが中心となる、といった形です。また、公式な役割ではない「非公式な役割」として、「チーム内の技術トレンドキャッチアップ担当」「困っているメンバーの相談役」「チーム内の雰囲気メーカー」といった形で、メンバーの隠れた強みを活かす機会を作ることも有効です。
3. チーム内で「強みマップ」などを共有し、相互理解を深める
チーム全体で、メンバーそれぞれの強みを共有する機会を設けます。簡単な自己紹介で「私の強みは〇〇です」と共有したり、前述のアセスメントツールの結果を話し合ったりすることで、互いの得意・不得意を理解し合い、「困った時は〇〇さんに聞こう」「この件は△△さんが得意そうだ」といった形で、チーム内で自然な助け合いや協働が生まれます。
物理的なホワイトボードや、Confluence、Notionなどの情報共有ツールに「チームメンバーの強みリスト」を作成し、いつでも参照できるようにすることも考えられます。これは、特にリモート環境で働くチームにとって、お互いの見えにくい側面を知る良い機会となります。
4. ストレッチアサインメントと成長機会の提供
メンバーの既存の強みを活かすだけでなく、少し背伸びが必要な「ストレッチアサインメント」を通じて、新たな強みを発見したり、既存の強みをさらに磨く機会を提供することも重要です。
例えば、コミュニケーション力は高いが技術的なプレゼン経験が少ないメンバーに、社内勉強会での発表を任せる。特定分野の技術に詳しいが、全体設計の経験がないメンバーに、小規模なシステム設計の一部を任せてみる、などです。リーダーは、その際適切なサポートやフィードバックを行うことで、メンバーの成長を促進します。これは、メンバーのキャリアパスを支援する上でも非常に重要な役割を果たします。
5. ポジティブなフィードバックで強みを強化する
メンバーが強みを発揮して良い成果を出した際には、具体的にその行動と結果を結びつけてフィードバックします。「〇〇さんが△△(強みを発揮した行動)をしてくれたおかげで、□□(具体的な成果)につながったね。素晴らしい貢献だよ。」のように伝えることで、メンバーは自身の強みがチームに貢献することを実感し、その行動を意識的に再現しようとします。
実践上の注意点
- 特定のメンバーへの依存を防ぐ: 強みを持つメンバーに特定の業務が集中しすぎないよう、タスク分散や他のメンバーへのスキル共有を促すことも同時に検討します。
- 弱みの補完も視野に入れる: 強みを活かすことは重要ですが、弱みを無視するわけではありません。チーム全体で弱みを補完し合える体制を作るか、あるいは必要に応じてスキルアップの機会を提供することもリーダーの役割です。
- チーム全体のバランスを考慮する: 個々の強みを追求するあまり、チーム全体の目標達成がおろそかにならないよう、常にチームの目的とメンバーの配置を照らし合わせる必要があります。
- 継続的な取り組みとする: 人の強みや関心は時間と共に変化します。一度見つけて終わりではなく、定期的な対話や観察を通じて、常にメンバーの現状を理解しようと努めることが重要です。
まとめ
多様なメンバーで構成されるITチームにおいて、リーダーが個々の「強み」を発見し、それを戦略的にチームの成果につなげることは、単なる理想論ではなく、現代のチームマネジメントにおける必須スキルと言えます。
技術力に加え、多様な働き方や価値観を持つメンバーへの対応に課題を感じているフロントラインリーダーの皆さまにとって、メンバーの強みに目を向け、それを引き出すことは、チームの可能性を最大限に解放し、不確実な変化にも対応できるしなやかなチームを築くための強力なアプローチとなります。
ぜひ、日々のチームマネジメントの中で、メンバーの行動や言葉、興味関心に注意深く耳を傾け、一人ひとりが持つユニークな「強み」を見つけ、それをチームの力に変える実践を始めてみてください。その積み重ねが、メンバーの成長とチーム全体の成功につながっていくはずです。